体外受精で生まれる子の大半は健康だが・・・

体外受精とエピジェネティックな「異常」
（双子の遺伝子2013:ティム・スペクターp.345~346引用）

　では、「試験管ベイビー」と呼ばれる、体外受精（体外の、ガラスやプラスチックの試験管の中で精子と卵子を結合させる）のプロセスではどうだろう。エピジェネティックな作用が、何か複雑な影響を及ぼすのだろうか？

　最初の試験管ベイビーは1976年に、イギリスの生物学者、ロバート・エドワーズが誕生させ、エドワーズは後にその功績によってノーベル賞を受賞した。現在、体外受精はありふれた技術となり、年間に数百万人の試験管ベイビーが生まれている。しかし時が経つにつれて、そのマイナス面が見えてきた。いくつかの研究により試験管ベイビーは自然の妊娠で宿った子に比べて、生後一年以内に異常（口唇裂、心臓の異常、内反足など）が見つかる確率がほ２倍であることがわかったのだ。(5) 刷り込みによって引き起こされる、ベックウィズ・ウィードマン症候群などの稀な病気を持っている確率は６倍も高かった。

　つまり、体外受精で生まれる子の大半は健康だが、エピジェネティックな問題は確かに起きており、後々病気が見つかったり、病気になったりする子がいるのだ。(6) この問題は不妊男性の20％は重要な遺伝子に刷り込み異常があるという事実ゆえに、いっそう複雑なものとなる。彼らは体外受精を利用しがちで、その際にはエピジェネティックな異常を子供に遺伝させる。このことが体外受精のリスクをさらに高くするのだ。(7) 体外受精児は、長くてもまだ30年程度ー体外受精が実用化されてからの年数ーしか生きていないので、年を取るにつれ、刷り込みやエピジェネティックな異常によってどんな異常が出てくるかはわかっていない。しかし、そのおそれがあるのは確かだ。（以下省略）

注記）
5　Reefhuis,J.,et al,Hum Reprod,2009;24(2):360-6
6　Strawn,E.,Y.,et al,Fertil Steril,2010;94(2):754.e1-2
7　Rajender,S.,et al,Mutat Res,May-Jun 2011;727(3):62-71

ティム・スペクター：ロンドン大学キングス・カレッジの遺伝疫学教授で、ガイズ・アンド・セント・トーマス病院の双子児研究所の所長も務めており、1992年に英国で最大規模の双子研究を立ち上げ、現在に至るまで指揮している。この研究の対象となった双子は、1,1000人を超える。これまで500本以上の論文を発表し、数々の賞を受賞。

双子の遺伝子――「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける 単行本 – 2014/9/12

ティム・スペクター (著), 野中 香方子 (翻訳) ダイヤモンド社  

体外受精で生まれる子の大半は健康だが・・・

体外受精とエピジェネティックな「異常」
（双子の遺伝子2013:ティム・スペクターp.345~346引用）

　では、「試験管ベイビー」と呼ばれる、体外受精（体外の、ガラスやプラスチックの試験管の中で精子と卵子を結合させる）のプロセスではどうだろう。エピジェネティックな作用が、何か複雑な影響を及ぼすのだろうか？

　最初の試験管ベイビーは1976年に、イギリスの生物学者、ロバート・エドワーズが誕生させ、エドワーズは後にその功績によってノーベル賞を受賞した。現在、体外受精はありふれた技術となり、年間に数百万人の試験管ベイビーが生まれている。しかし時が経つにつれて、そのマイナス面が見えてきた。いくつかの研究により試験管ベイビーは自然の妊娠で宿った子に比べて、生後一年以内に異常（口唇裂、心臓の異常、内反足など）が見つかる確率がほ２倍であることがわかったのだ。(5) 刷り込みによって引き起こされる、ベックウィズ・ウィードマン症候群などの稀な病気を持っている確率は６倍も高かった。

　つまり、体外受精で生まれる子の大半は健康だが、エピジェネティックな問題は確かに起きており、後々病気が見つかったり、病気になったりする子がいるのだ。(6) この問題は不妊男性の20％は重要な遺伝子に刷り込み異常があるという事実ゆえに、いっそう複雑なものとなる。彼らは体外受精を利用しがちで、その際にはエピジェネティックな異常を子供に遺伝させる。このことが体外受精のリスクをさらに高くするのだ。(7) 体外受精児は、長くてもまだ30年程度ー体外受精が実用化されてからの年数ーしか生きていないので、年を取るにつれ、刷り込みやエピジェネティックな異常によってどんな異常が出てくるかはわかっていない。しかし、そのおそれがあるのは確かだ。（以下省略）

注記）
5　Reefhuis,J.,et al,Hum Reprod,2009;24(2):360-6
6　Strawn,E.,Y.,et al,Fertil Steril,2010;94(2):754.e1-2
7　Rajender,S.,et al,Mutat Res,May-Jun 2011;727(3):62-71

ティム・スペクター：ロンドン大学キングス・カレッジの遺伝疫学教授で、ガイズ・アンド・セント・トーマス病院の双子児研究所の所長も務めており、1992年に英国で最大規模の双子研究を立ち上げ、現在に至るまで指揮している。この研究の対象となった双子は、1,1000人を超える。これまで500本以上の論文を発表し、数々の賞を受賞。

双子の遺伝子――「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける 単行本 – 2014/9/12

ティム・スペクター (著), 野中 香方子 (翻訳) ダイヤモンド社